1932年生まれの大学者。

戦後日本の大天才 小室直樹 
「戦争と国際法を知らない日本人へ」

 コロナ禍の2022年現在。ロシアがウクライナへの侵攻を続けている。「核兵器」の使用も辞さない…と言う、ロシアのプーチン大統領に、世界中が驚愕し怒り、解決の方を見つけられないように見える。また、日本人から見て、「狂気の沙汰」とも取れる侵攻を、中国・インド・トルコなどの国々が、半ば擁護するような反応を見せている。
 この侵攻があり、非常に苦しい気持ちになっていた時に、新聞一面の書籍欄に、「小室直樹」の名前を見て、偉大なる先人に平和ボケしている頭を勝ち割っていただきたく、本書を購入した。買った当初、「愛国心」から右翼的発言が多そうだ…と言う、偏見に苛まれ、なかなか読むことができなかった。しかし、本書を読み終えて、小室直樹氏自身が、日本の京都大学理学部を卒業後、大阪大学大学院経済研究科、東京大学法学政治学研究科、アメリカマサチューセッツ工科大学、ミシガン大学、ハーバード大学に留学しながら、生涯に渡って、「あるべき世界の姿・その構造」「あるべき日本の姿・その進む道」を模索し続けられたのではないかと思う。だから、本人がどういう風に表現していたかは分からないが、心の本心では右であろうが左であろうが、「あるべき道」を考え抜かれていたのかと思う。

 本書の最後に、生涯にわたる「小室直樹文献一覧(全集)」が記載してあるが、その数は69巻。他の論文も多数ある。その題名だけでも、興味を惹かれる。
第一巻 「危機の構造 日本社会抱懐のモデル」
③   「アメリカの逆襲 宿命の対決に日本は勝てるか」
④   「新戦争論 "平和主義者″が戦争を起こす」
    「あなたも息子に殺される 教育荒廃の真相を初めて研究」
    「脱 日本型思考のススメ」
⑰   「偏差値が日本を滅ぼす 親と教師は何をすればいいか」
㉒   「世界戦略を語る」
㉕   「大国 日本の崩壊 アメリカの陰謀とアホな日本人」
㊶   「国民のための経済原論Ⅰ・Ⅱ」
㊾   「日本国民に告ぐ 誇りなき国家は必ず滅亡する」
52   「人にはなぜ教育が必要なのか」
59   「日本人の為の宗教原論 あなたを宗教はどう助けてくれるのか」
62   「日本人のための憲法原論」
63   「新世紀への英知 われわれは何を考え、何をなすべきか」
66   「日本国憲法の問題点」
第49巻の「日本国民に告ぐ…」の書籍を、10代の時に読んで学んだと記憶しているが、その時は、内容に事実ではない記載があったり(真相は分からない)、表現が切れすぎていて、10代の時には理解しがたかった。これは想像だが、小室氏は、自分で見たり聞いたり、考えたことを元に、歯に衣を着せずに論述していたのだと思う。だから、回収した情報を「本当かどうか?」と他人に判断させず、他人が「怪しい」と考える情報でも、自分の納得したものなら積極的に書籍に取り入れたのではないだろうか?
 私の言い方が、少しまどろっこしい。第49巻の中に、坂本龍馬、高杉晋作、伊藤博文、大久保利通、西郷隆盛、桂小五郎、大隈重信、(明治天皇!!!)…などなど、後に明治の志士として刀を交えた人物が、一つの写真に収まっている箇所があった。つまり、小室氏の論法で言うと、明治維新そのものが、志士によって演じられていた。…と言う説だ。「内々の密約ができる間柄であった。」と言う事なのだが、この写真の話は、実は業界では有名で、「全てそっくりさんだった。」と言う説が有力なようだ。
 そういうことがあり、私に取っては非常に、禁書的な扱いの著者であった。しかし、今回の戦争の事で、先人に学べという事で手に取った次第だ。
 本当は内容を要約しようと思ったが、非常に「重厚」に作られた本なので、是非、ゆっくり理解が進むまで読むのがお勧めだ。気づくのは、小室氏が非常にリベラル(と私には思われた)な立場で、アメリカ・イスラム文化の宗教的背景から、湾岸戦争に至るまでの、人類の戦争の歴史を紐解いている、その真剣な姿勢である。小室氏は、国際連盟から国際連合の成立過程から、「国際連合」は軍事同盟であり、「国際連合」を何かにつけて「正しい」「正義だ」とする日本の潮流に異を唱えているし、湾岸戦争においてもサダム・フセイン大統領の「イスラム教徒」としての姿勢に「アメリカ支配に抵抗した偉人とも言える。」と評価している。また、田中角栄を「アメリカの手先たちに計略された」と擁護したりもしていたようだ。

 他方、「アメリカの差別政策など」に対し、「根本的な解決を図り、アメリカのイデオロギーを守っている。」と、そのフレキシブルさに敬意を表したりもしていて、要するに、「物事を他人の価値判断に委ねない姿勢」を貫かれていたのではないかと思う。その姿勢が、「学者」たるものなのだろうか。

 この本は、平成9年に「あとがき」が小室氏によって書かれているが、最後に、
「戦争は尽きず、今も死の商人は横行している。破産寸前の日本がどれほどの大金を搾り取られるか逆賭(予測)できないではないか。こんどこそ、日本人は戦場に立たせられるかもしれない。
 今こそ、戦争、政治、国際法を理解することが緊急時であるのである。」

 と結ばれている。小室氏は、日本に戦争の惨禍が来る時を見据えて、しっかりと現実に即した感覚や準備をするべきだと説いているのでは?と思う。著書に触れるのは2つ目なので何も言えないが、具体的な考えを色々と持って居られたと思う。
 私は、今回のロシアとウクライナのことがあるまで、中近東などの戦争が、何となく「対岸の火事」のように思い、「平和憲法」のある日本が「いい国で良かったな。」とのんびりしていたと思う。小学校の時に湾岸戦争が起こり、子ども心に、「フセインが悪いんだ。」等と思っていたが、世界がアメリカ支配になり、そのことに恨みや憎しみをつのらせるイスラム諸国の人の気持ちがあること等、あまり考えていなかった。大人になって、「アメリカばかりが正義ではない。」と思うようになったが、今回の本で世界のパワーゲームの歴史が何となく分かった。

 憲法九条のことで言うと、「現実を観れば」自衛隊を明記どころか、「軍隊を持つ、普通の国」になれば、皆が安心し、急場をしのげるかもしれない。しかし、よくよく考えて、核兵器を持つロシアが本当に「使うか否か」という事実が起きている以上、「軍隊の上塗り、兵器の上塗り、核兵器の上塗り」のパワーゲームに、日本が進んで参戦することは、本当に「世界の平和」を保つことになるのだろうか。
 
「応戦しても、応戦しなくても、人が死ぬ」ことは確実だし、悲惨な第二次世界大戦の結果、「軍事力を放棄したこと」は私は「高邁な理想」であると思う。そこはよくよく考えて行くべきだ。今、「歴史に試されている」と私は思う。
 「議論を終わらせる。」と言う短絡的な方法ではなく、もう一段高い場所から、日本と言う国を考えて欲しいと思う。幸い、ロシア・中国などとの関係が悪化しているかもしれないが、第二次大戦後に友好に関係を築いてきた、アメリカ・ヨーロッパ諸国・アジアの国々…との関係もある。
 食うか食われるかの戦争・経済戦争も、世界の国々が共生すべきだと思う若者も増えているだろうし、エネルギー問題・環境問題などを考えてみれば、もっと深刻な問題が横たわっている。人類は核戦争ではなく、エネルギー問題で滅びるかもしれない。「殺し合い」などしている場合ではないのだ。そのことを深く考える時、世界に日本だけでも、「軍事力を放棄した」国がある事は、本当に素晴らしい事では無いだろうか。

 小室氏の他の著書も、是非、また学ばせていただきたい。